イギリスで活動するコスチュームジュエリーデザイナー、ララ・ボヒンク(Lara Bohinc)。1972年にスロベニアで生まれ、97年から自らのブランドをスタートし、2000年には「カルティエ(Cartier)」のジュエリーデザインコンサルタントを務めるなど活躍。昨年には、デザイナーとしての功績が認められ、大英帝国勲章MBEを受勲した。今回、来日した彼女にクリエーションやビジネスについて話を聞いた。
——まず、新作コレクションについて教えてください。
私は学生時代に新体操をしていたのですが、ナディア・コマネチが憧れの選手でもあり、いつもあんなふうになりたいと夢見ていました。「ナディア」のシリーズには、そんな思いが表現されています。例えば、新体操のリボンがくるくると巻く動きや、空を飛ぶ彼女の宙返り、そんなシーンをイメージしてデザインしています。
——立体的でありながら美しく優雅な動きが巧みに表現されていますね。
二つのボールがぶつかったようなデザインは、映画『惑星ソラリス』にインスパイアされたもの。ボールのパーツには動きがあり、中が空洞になっているので、見た目の割にとても軽くなっています。
——あなたのコレクションは、ゴールドやシルバーを使ったボリューミーなものが多く、どれも女性が着けているとゴージャスな気持ちになれます。でも重くないのが嬉しいですね。
レーザーカットの「ティアナ」のシリーズは、ブランドの初期からやっているコレクションですが、これもメタルを使っているけれど軽く、独特のカットによってフラットに仕上がっているので、服にひっかかったりと邪魔をすることもありません。ボリュームがありつつフラットで軽く、着けていてとても楽、私自身もそういうものを身に着けたい思いますし、女性は皆、そうでしょう?
——フェミニンだったり、アーティスティックだったりと、幅のあるデザインも魅力ですね。
ありがとう。自然にデザインのアイデアが浮かんで来るんです。自分でもこれと決まったものではなく、いろいろなテイストが好きなんです。ですが、(素材はメタルがメインで)ダイヤモンドもエメラルドも使っていません。皆さん、純粋にデザインを楽しんでくれているんだと思います。
——インダストリアルデザインを学んだというバックグランドがあるから、ジュエリー製作の技術を熟知しておられます。それが他のデザイナーと違った作品を生み出す秘密でもあるのでしょうか?
確かにそうですね。作品を作る時にはまず素材を見て、どんなことができるのか、その素材の特徴を精査して、それならこういう手法、例えばレーザーカットするのがいいのか、エッチングがいいのかなど、製作の手段を考えてから、デザインに落とし込むこともあります。これは、普通のジュエリーデザインとは工程が逆ですね。
——あなたがデザインしたいのはジュエリーですか?
正直に言うと、私は「デザイナー」なので、ジュエリーじゃなくても何でもいいんです。テーブルでもイスでもタペストリーでも、洋服でもなんでもデザインできるし、したいと思っています。ジュエリーは小さいから、他のモノに比べて手軽に作ることができます。だから、最初にジュエリーからスタートしたんです。
——ジュエリーの製作は、ファブリックやプロダクトなどとは違いませんか?
デザインする時には、どちらにしても平たい紙にドローイングすることから始まるし(笑)。実際、デザイン業界に入って最初の2年間は、グラフィックデザイナーとしての勉強をし、仕事もしていました。その後インダストリアルデザイナーの道を歩み始めたのですが徐々に得意分野に特化していったような感じです。
——では、近い将来、あなたがデザインした住宅、なんて目にすることができるのでしょうか?
家の設計がいつになるかは分かりませんが(笑)、インテリアはやってみたいと思っているし、実際、もうすぐカップやソーサーなどを発表することが決まっています。
2/2へ続く。明日8月9日公開予定。