京都の手描き友禅・富宏染工と日本ならではのモノづくりにこだわるメイドインジャパンのバッグブランド「バルコスJライン」がコラボレーションし、日本の職人技と感性が融合したバッグが誕生した。バルコスJラインのデザイナー・大谷リュウジ氏と、手描き友禅の企画から製造までを手掛ける富宏染工の取締役・藤井友子氏に話を聞いた。
――今回のコラボレーションすることになった経緯は?
藤井:2013年の春頃、三越伊勢丹の大西洋社長から日本の良い物を紹介する企画を検討されているというお話を聞いたのが始まり。様々なデザイナーやメーカーとお引き合わせして頂き、徐々にプロジェクトが進んでいきました。バルコスさんがその一つにあったんです。
大谷:僕は、バルコスの山本敬社長からバルコスJラインで手描き友禅を組み合わせたバッグを作る企画があるので考えてほしい、ということでお話をいただきました。
――バッグの製作にあたり苦労した点は?
大谷:染めの下絵を京友禅の生地幅にきちんと合わせ、バッグと融合させるという点ですね。富宏染工さんの手描き友禅の製作現場を見学させていただき、どのような下絵が必要で、どのような過程で仕上げていくのかを伺った上で、デザインを描き起こしました。
藤井:大谷さんの絵には微妙な色が多いので、そのイメージを崩さないように作ることにすごく神経を使いましたね。模様の一つひとつにぼかしがあって、すごく精巧な絵なので、通常の2・3倍の時間を掛けました。友禅は生き物なので、熟練の職人でないと一つひとつの色のぼかし具合がうまく出ないんですよ。完成するまでは不安がありましたね。でも、元々うちはお誂えから出発しており、要望に沿ったものを作るところだったので、今回の企画では、そのお誂えの精神を発揮しました。
――富宏染工の「tomihiro」ブランドでは、着物以外の小物を展開されていますね。
藤井:次世代の職人を守り、育て、仕事を確保するためには、手描き友禅を着物以外の分野でも活かしていきたいと考えるようになりました。本格的にスタートしたのは2013年からです。
商品を見てすぐに「あ、これは友禅ね」と分かるお客様は少ないですが、色がきれい、かわいい、とおっしゃっていただくことが多いです。友禅は多色使いで色がきれいに仕上がるので、そこに目を留めていただけているようです。
――バルコスJラインは、最高の技術と最高の素材を使うというのがコンセプトにありますが、職人さんとはどんなやりとりをされているのでしょう?
大谷:僕の場合は、こんなバッグが欲しい、というデザインを出したものを、主にバルコスの職人さんと製作方法や内容を詰めていくという感じです。実際、僕の描いたデザイン画を再現するために、職人さんが試行錯誤した末に、ようやく実現したバッグもあります。他にはない、今までに見たことのないバッグを作りたい、ということにこだわってアイデアを出し、理想の鞄を完成させるまで、僕自身も何度も職人ともやり取りをしています。
――日本の伝統産業マーケットの縮小や、工房や工場の廃業を耳にします。
藤井:その点においては、ものすごく危機感を覚えています。だからこそ、友禅の技法を生かしながら、コサージュやバッグなど身近に使えるアイテムを媒体に、より多くの方に友禅の魅力を知ってもらえるようにと活動しています。
――今ある技術や文化をどう未来につなげていきたいですか?
藤井:うちは着物を売っているというより、手描き友禅でものづくりをしている会社なので、その技術を生かして職人がずっと仕事をしていけるということが前提にあります。友禅には工程がたくさんあるので、糊や染めといったそれぞれの工程を使って着物以外の新しいものも作っていきたいです。ただ、根底には着物があるので、着物の製作はずっと続けていきたいですね。
大谷:僕の考える、ある意味現実的ではないデザインを具現化する作業が、職人さん達の新たな技術が生まれるきっかけになるのなら、僕も少しはお役に立てるのかなと思います。そうやって昔から続く技術や文化に、自分の出来るちょっとした刺激のようなものを組み込むことで、技は時代に合わせながら未来へと引き継がれていくのではないかと思います。