【ルック】トムブラウン 2026年春夏コレクション──“侵略されるテーラリング”、日常と異世界の境界を揺らすユニフォーム

トムブラウン（THOM BROWNE）が2026年春夏コレクションをパリで発表しました。ショーの冒頭で響いた言葉は「Hello, Earthlings. We have come to take over your boring wardrobe.」──まるで宇宙からのメッセージのような一文から始まる今季は、“異星からの侵略者が地球のワードローブを乗っ取る” というSF的ストーリーを軸に構成されています。

ブランドの根幹にある「ユニフォーム」「規律」「プレッピーの記号」はそのままに、シルエットはねじれ、ディテールは誇張され、クラシックは別の惑星の言語のように変換されています。

Courtesy of THOM BROWNE

テーラリングの骨格が“侵略”される瞬間
今季のジャケットやコートは、一見クラシックな構造に見えて、前方へねじれたショルダーラインが象徴的です。ラグランスリーブのようでもあり、アーマーのようにも見える構築は、“人間の身体への違和感”を意図的に生み出すデザイン操作です。さらに“4本足”のように見えるトラウザー、ドロップウエストで切り替えられたプリーツスカートなど、本来の重力や関節の位置をズラすようなフォルムが登場します。

Courtesy of THOM BROWNE

プレッピーコードの解体──ツイード、レップストライプ、そして銀色の干渉光
素材には、ブランドの象徴であるレップストライプ織やツイードが用いられながら、そこにシルバーグロメットやビーズ刺繍、スパンコールチュールのスペクトルが重ねられます。
その光は、まるで地球の通信周波数に割り込む“電波ノイズ”のような干渉光を思わせ、クラシックに異物を差し込むトムブラウンならではの表現が際立ちます。

Courtesy of THOM BROWNE

革新的ブーツとバッグ──日常アイテムが“未知の装置”になる
シューズでは、まるで靴下の上にヒールがストラップで固定されたような“クローズトゥブーツ”が印象的に登場。一見すると既視感のある形ですが、人間の足という前提を疑うようなシルエットが、装いに“異邦人の気配”を漂わせます。バッグは新作の「Teviot」と、メタルハンドルが削り出しのように装着されたモデルが登場し、工業的な質感とプレッピーコードの融合を提示しました。

Courtesy of THOM BROWNE

トムブラウンが描く“地球人のユニフォームの未来”
20年以上にわたり“ユニフォーム”を問い続けてきたトムブラウンにとって、今季のコレクションはひとつの進化系です。かつては「規律と違反」という二項で語られていたその強度は、今回は“地球外からの視点”というメタ的構造によって拡張されました。クラシックなテーラリングを“知らない誰かが模倣したような違和感”。そのズレこそ、トムブラウンが2026年春夏で提示した新たなファッションの可能性です。