リック・オウエンス初の回顧展『Rick Owens, Temple Of Love』がパリでスタート。創作と精神の軌跡をたどる100体超のシルエット

開催日:2025.06.28-2026.01.04
2025.07.16
パリ市立モード美術館〈パレ・ガリエラ〉にて、リック・オウエンス(Rick Owens)の創作活動を紹介するパリ初の回顧展『Rick Owens, Temple Of Love』が開催されています。初期のロサンゼルス時代から現在に至るまで、オウエンスのアーカイブから厳選された100点以上のシルエットが展示されており、彼の思想、構造、そして“美”の定義に迫る内容となっています。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP
精神性と儀式性を核に据えたオウエンスの創作は、文学、映画、美術、宗教的図像、サブカルチャーなど、多様な文化的背景と常に交差してきました。展では、ジョリス=カルル・ユイスマンスの象徴主義文学から現代アート、20世紀初頭の映画に至るまで、彼のインスピレーションの源を視覚的に辿ることができます。展示構成にはリック・オウエンス自身が芸術監督として参加しており、美術館の内部にとどまらず外壁や庭園までを含む展示経路が構成されています。これは、ファッション展という枠を超えた、空間インスタレーションのような体験となっています。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP

再利用素材と静謐な構造――初期作品に宿る反逆のエレガンス
1961年にカリフォルニアで生まれたオウエンスは、ロサンゼルスでパターンカッターとしてキャリアをスタートし、1992年に自身のブランドを立ち上げました。軍用バッグや毛布、使い込まれたレザーといった“すでに存在するもの”に新たな命を吹き込み、ドレスジャケットに昇華させた初期の作品群からは、彼が限られた素材の中に可能性を見出していたことがうかがえます。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP
「ダスト」と名付けられた独特のグレーをはじめ、黒やスモーキーな色調で構成される彼の色彩は、色を削ぎ落とし構造と質感にフォーカスする姿勢を明確にしています。それは、建築的な緊張感を感じさせるほどの造形力でもあります。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP

挑発と称揚――パリ以降のショーで放たれたメッセージ
2003年に拠点をパリに移して以降、オウエンスはファッションショーという形式自体を実験の場としてきました。あるショーでは黒人女性のステップダンスチームをモデルとして起用し、また別のショーでは男性モデルの性を露出させるなど、その演出は常にジェンダー、身体、社会に対する視座を提示するものでした。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP
近年では、世界的な危機や不安定な社会情勢に対して、より彫刻的で静謐な造形や鮮やかな色彩をもって応答しています。破壊と再生、愛と喪失といった対極を一つのシルエットに内包することが、彼の表現の大きな特徴となっています。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP

ミシェル・ラミーとの共創、私的空間の再構築
本展では、オウエンスの創作を語るうえで欠かせない存在であるミシェル・ラミー(Michèle Lamy)にも光が当てられています。長年のパートナーであり共同制作者でもある彼女の影響力を可視化するため、カリフォルニア時代の夫妻の寝室を美術館内に再現しています。私的空間を再構築するこの試みは、ブランドの背景にある“生”の気配を伝えるものです。また、ギュスターヴ・モロー、ヨーゼフ・ボイス、スティーブン・パリーノといったアーティストの作品も併せて展示され、オウエンスの美意識のルーツが多角的に紹介されています。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP

美術館そのものが“寺院”に変貌するスケール
展示は美術館の外へも広がります。外壁の彫像群はスパンコール刺繍の布で覆われ、静かな祝祭性を帯びた佇まいとなっています。庭園には、オウエンスが手がける家具ラインを彷彿とさせるブルータリズム様式のコンクリート彫刻が30点配置され、彼の愛するカリフォルニア原産の植物やブドウのつるも植え込まれています。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP
『Rick Owens, Temple Of Love』は、ファッションという枠を超え、愛、美しさ、多様性についての瞑想を提示する、前例のないスケールの展覧会です。ひとつひとつのシルエットが、来館者に静かに語りかけ、美術館そのものを創造と信念に捧げられた寺院のような空間へと変貌させています。

photo by MATTEO CARCELLI / Courtesy of OWENSCORP


Rick Owens, Temple Of Love

会期:2025年6月28日(土)~2026年1月4日(日)
会場:パリ市立ガリエラ宮美術館
Musee de la Mode de la Ville de Paris(Musee Galliera)
10 Av. Pierre 1er de Serbie, 75116 Paris, フランス



編集部
ページトップへ