パリ・ルーブル美術館に隣接する装飾美術館にてパリファッションウィーク中の3月1日より「ドリス・ヴァン・ノッテン―インスピレーションズ」展が開催されています(8月31日まで)。
私は20年以上「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」というブランドをバイヤーとして買い付けて来ました。また個人的にもドリス氏自身と何度かお話する機会があり、そんな背景もあってこの原稿を頼まれています。
パリコレクション中に原稿依頼を頂いた直後、驚くべき偶然がありました。ドリス氏自身に直接展覧会を案内し解説して貰うという、信じられないような幸運があったのです。展覧会自体はレセプションで拝見していましたが、後日、もう一度観たいと思って入場券購入の列に並んでいた私を同社プレスのパトリックが見つけ「何しているの?」という会話から「それなら今から始まるプライベートビューに参加して!」と呼び入れていただいたら、そこにはドリス氏が居て、そこから1時間半、彼自身に案内して頂いた……という経緯です。
前置きが長くなりましたが、これほどの幸運・偶然は考えられず、その成果(?)を是非お伝えしたいと思います。
「インスピレーション展は回顧展ではないのです」とドリス氏は言います。「自分が生きて、現役でいる間にこのような展覧会を行えるのはファッションデザイナーとしてこの上ない幸福であり、名誉です。私がこの展示で表現したかったのは“何からインスピレーションを得てデザインしてきたか?”を開示し、展示することで私の頭の中を一緒に旅して貰えたら、ということです。私にとってファッションとは即席でつくられたり、誰かの作品をコピーしたりして出来上がるものではないし、また、インスピレーション源自体も絵画や映画や文学や新聞、あるいは自然や草花や偶然拾ったもの、旅先で出合ったもの等、多岐にわたり限定できないものです。しかも、そこからそのままカタチになることはなく、頭の中であれこれ捻っているうちにだんだんと形になっていきます」
と、彼自身が語るように、その発想源は実に多様です。会場には偉大なファッションの先達の服も展示してあります。イヴ・サンローラン、クリストバル・バレンシアガ、装飾美術館自身のアーカイブからはカンサイヤマモト、ヨウジヤマモト、セシル・ビートンが着ていた服は個人の収蔵品から借りたそうです。
そう“インスピレーション”展のダイナミズムとは装飾美術館の収蔵品のみならず、オルセー美術館からジョヴァンニ・ボルディーニを、ホワイトキューブ・ギャラリーからはダミアン・ハーストを、といった具合に収蔵品を借り出してまで可能にした、前例のない“インスピレーションの宇宙”が具現化されている点にあります。こうして展示されているアート作品は100点以上、ドリス ヴァン ノッテンの作品も180体以上。また、本展示のために特別製作された映像作品もあります。
2/2に続く。