10月4日から11日まで、京都・渉成園で開催される「プティ アッシュ」。これに際して来日した、エルメス「プティアッシュ」アーティステック・ディレクターのパスカル・ミュサールに、彼女が愛する街・京都で話を聞く機会を得た。アーティストやデザイナーと、職人の対話から生まれたユニークなオブジェに込められた思いとは?
パスカルは、エルメス家第6世代で、幼少の頃からエルメスの職人の技や素材に触れて育った人物。彼女は「プティ アッシュ」が世界で初めてエルメスブティックの外で開催されるのが京都の街であることについて、「伝統の技が息づく手仕事の街である京都で『プティ アッシュ』を開催することは、勇気のいることでもありました。でも、その伝統に対する敬意を払い、さらい高い次元で手仕事とデザインを融合させたオブジェを生み出すことは、エルメスにとっても跳躍台のような意味を持つでしょう。だから、京都での開催に迷いはありませんでした」と語る。
■創造とは「夢を見ながら、夢を与えること」
第一次世界大戦後に馬具の需要が減少する中、新しい世界に目を向けていくことこそがエルメスの挑戦であり、選択だったというエピソードをあげ、「『プティ アッシュ』で新しい何かを共に創造することは、各メチエの作り手にとっても刺激になります。新たな素材や技との出合いは、クリエーションを豊かにしてくれるからです。こうして我々が、夢を見ながら作り上げてきたオブジェたちがまた、見る人の心を動かし、憧れを抱かせ、新たな夢に繋がることが我々のモノづくりにおいて、何より大切な哲学なのです」と続けた。
インビューの合間にも、渉成園の庭にふと目を向け「ロープの結び方ひとつとっても、そのディティールから新たな発見があります。日本の知恵が詰まったこの空間は、私にとって究極のラグジュアリー。京都の街はなんて誘惑の多い街なんでしょう」と微笑む彼女は、この世界にある美しきものを慈しむ喜びを知る人なのだろう。
「この場所にいると、かつて京都の要人たちが平穏を求めてこの庭を訪れた理由が分かる気がします。TVをつければ、世の中の混沌を物語るようなニュースに溢れています。今の世界は歴史がせっかく教えてくれることを理解していないのでは、と思ってしまいます。『この世界を美しさが救ってくれるのでは』と夢見るためにも、この静寂の中で過ごす時が必要なのではないかしら」とパスカルは続けた。
「プティ アッシュ」とは、時を経て継がれてきた技と技が交差する瞬間なのかもしれない。そしてまた、未来に向けて新たに時を刻み始めることにも感じられる。「プティ アッシュ」のオブジェと対峙し、鍛錬や修練の先に今という“時”があるということを教えられ、そして、その美しさに憧憬した。