2016春夏の新作コレクションが店頭を飾り始めた。この春、何を買って着ようかと情報チェックはすでに終了したタイミングに、手に入れる商品の背景や店頭に並ぶ必然性を考察してみた。
5ヶ月前の2015年10月に開催された、2016春夏パリコレクション。各メゾンの新作は発表の翌日には「Style.com」(現Vogue.com)で、速報として世界中に配信され、翌月になるとコレクション分析はすっかり終わり、注目の素材はレースで、流行色は白になると頭のどこかにインプットされている。SNSで拡散されたリアルなブロガーの言葉が響いたとなれば、その意見に従い買い物計画を練っているのかもしれない。ブティックには新作の商品が揃い始めたこのタイミングで、改めてコレクションについて語ることにしたのは、同じ服でも視点が変わると違う見え方をすることを提案するためだ。
3シーズンほど前からトレンドのキーワードに登場している「ジェンダレス」に注目してみた。この言葉の意味は「性差を超えて」だ。20世紀の女性は、ロングスカートからミニスカートに履き替え活発に、ズボンを履きテーラードジャケットを着て男性と肩を並べた。女性ファッションは「ユニセックス」「アンドロジーナス」などという言葉に置き換えられ、進化していった。
21世紀に入ると、今度は男性ファッションに変化が起こり、フリルのついたシャツも、スカートを模したパンツも受け入れる男性が増えている。ジョナサン・アンダーソンのように性差の壁を取り払い、同じ素材、同じデザインを提案するデザイナーも登場している。(その現象は、デザインのアイディアやテクニックで表現可能な事柄で、世相の変化として捉えることができる。)
ところが女性と男性デザイナー別にコレクションを並べてみると、ジェンダーの差が見えてくるのだ。女性デザイナーはまず自分が着たい服を提案し、男性デザイナーは妄想をデザインに落とし込んでいるのだ。それは今始まったことではなく、一般市民がファッションを楽しむようになったころから何ら変わっていないことに気がつく。
女性デザイナーの出発点は、自分が今着たい服だ。男性デザイナーは、新しい考えを持つ女性にはこんな服を着て欲しいし、求めているに違いないという妄想だ。そこで女性たちは、どのプレゼンテーションに賛同するかによって自分が着る服を選ぶのだ。男性デザイナーの服がセクシーに見えるのは、彼らが造形的な「美」を追求するからだろう。それにひきかえ女性デザイナーは案外現実的で、こんな服があったら「着易い」や「楽」をキーワードにし、さらに古い考えから解放された自分をデザインし、男性の視線は二の次の場合が往々にしてある。
今まで、何気なく選んでいた服が、男性または女性デザイナーによるものなのか意識することで、ファッションの視点が変わっていく。伝統と革新、感情と知性、点(モード)と面(スタイル)を対比しながら、もう一つの視点を模索してみた。
男性デザイナーという視点から
ディオール(Dior)
19世紀ヴィクトリア朝のランジェリーを現代風にアレンジしたシリーズは、コットンボイルが醸し出す清廉なイメージ。プリーツを施したバージャケットのしなやかなラインは上質のエレガンスが香りたつ。
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ランバン(LANVIN)
人の手が作り出す真実を意味する「マニュフェスト」をテーマに、ランバンを支える職人たちを讃えたコレクション。服が完成する工程をデザインしたり、クチュール的な手法にアルベール・エルバスの繊細さを垣間見た。
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ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
デジタル化社会が本格化する時代を捉えたニコラ・ジェスキエールは、「ファイナルファンタジー」の世界を、メタリックフィルム素材やピクセルをパターン化しモードに変換。確かなクオリティが未来の創造を生み出す力に。
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サンローラン(Saint Laurent)
ムッシュサンローランの形をなぞることよりマインドを読み込むエディ・スリマン。ロックフェス用のウエリントンブーツとクチュール手法のドレスを組み合わせて究極の贅沢を表現。ムッシュを彷彿させる反骨精神は健在。
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メゾン マルジェラ(Maison Margiela)
ロマンチックで創造的なジョン・ガリアーノならではの文脈で綴った新生マルジェラ。時代も国籍も超越したコレクションは、50’sのクチュールと着物ドレスで構成。メゾンのコードを独自のセンスで読み替えた。
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シャネル(CHANEL)
永遠のパリコレクションはシャネルが開催するグランパレにある。会場を空港のカウンターに仕立て、シャネルエアラインを利用するマダムたちが必要なワードローブを展開。トレンドはシューズで表現する。
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ロエベ(LOEWE)
レザーの老舗ロエベのイメージを刷新するかのような、ビニールやミラーをアップサイクルしたコレクションを披露したジョナサン・アンダーソン。コレクション後一部はすぐにオンラインで購入できるシステムを早くも導入。
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ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
独特の色彩感覚と異質なパターンの組み合わせ、ドリスしか奏でることができない不協和音を思わせる組み合わせの服たち。ブロケードやチュールを使いフェミニン度が高いコレクションに仕上がっていた。
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女性デザイナーという視点から
クロエ(Chloe)
スポーツジャージーとシフォンを組み合わせてみたら新鮮なコーディネートが誕生。上質の素材で70’sの香りがするカジュアルを表現するクロエは、時代を超えたパリシックの基準となり女性を魅了する。
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ステラ マッカートニー(Stella McCartney)
カジュアルを新解釈したポロシャツディテールのチューブドレス、動きによってオプティカルな効果をもたらす2色使いのプリーツドレス、刺繍やレーシーな手法のドレスはこの春夏のマストハブアイテムに。
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エルメス(HERMES)
最高級の素材と職人技が常備されたメゾンで働くことの幸せを感じるナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーは、自分のやるべき仕事の一つに頭脳プレーを見出した。色や素材選び、スカーフの扱いどれも知的な作業が施されている。
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アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)
17世紀にカトリック教徒に追われ、フランスからイギリスに逃れたユグノー(プロテスタント)がもたらした繊細なシルク素材やロマンチックな花柄をモチーフにして、たおやかな女性像を描き出した。
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ミュウミュウ(MIU MIU)
ミュウミュウのコレクションは、これから昔話やおとぎ話が始まる予感。オーバーサイズのコートやオーガンジーのエプロンドレスやお姫様のティアラには、どれもストーリーが隠されているかのよう。
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サカイ(sacai)
セカンドハンドショップで見つけた宝物とは、スーベニールスカーフ、ゴールドのレース、シフォン製のバンダナ等など。アシメトリーのヘムラインが揺れるたびに見え隠れする乙女心が、女性を虜にする。
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コム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)
ベルベット、マラボーなどを多用してたボリューミーな服をまとった「ブルー・ウイッチ(青い魔女)」は、強さを備えたグラマラスな女性を感じさせる。シーズンのメッセージは常に言葉を必要としない。
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「過去、現在、未来へ」へ進む。
「ファッションの息遣い」へ進む。
5ヶ月前の2015年10月に開催された、2016春夏パリコレクション。各メゾンの新作は発表の翌日には「Style.com」(現Vogue.com)で、速報として世界中に配信され、翌月になるとコレクション分析はすっかり終わり、注目の素材はレースで、流行色は白になると頭のどこかにインプットされている。SNSで拡散されたリアルなブロガーの言葉が響いたとなれば、その意見に従い買い物計画を練っているのかもしれない。ブティックには新作の商品が揃い始めたこのタイミングで、改めてコレクションについて語ることにしたのは、同じ服でも視点が変わると違う見え方をすることを提案するためだ。
3シーズンほど前からトレンドのキーワードに登場している「ジェンダレス」に注目してみた。この言葉の意味は「性差を超えて」だ。20世紀の女性は、ロングスカートからミニスカートに履き替え活発に、ズボンを履きテーラードジャケットを着て男性と肩を並べた。女性ファッションは「ユニセックス」「アンドロジーナス」などという言葉に置き換えられ、進化していった。
21世紀に入ると、今度は男性ファッションに変化が起こり、フリルのついたシャツも、スカートを模したパンツも受け入れる男性が増えている。ジョナサン・アンダーソンのように性差の壁を取り払い、同じ素材、同じデザインを提案するデザイナーも登場している。(その現象は、デザインのアイディアやテクニックで表現可能な事柄で、世相の変化として捉えることができる。)
ところが女性と男性デザイナー別にコレクションを並べてみると、ジェンダーの差が見えてくるのだ。女性デザイナーはまず自分が着たい服を提案し、男性デザイナーは妄想をデザインに落とし込んでいるのだ。それは今始まったことではなく、一般市民がファッションを楽しむようになったころから何ら変わっていないことに気がつく。
女性デザイナーの出発点は、自分が今着たい服だ。男性デザイナーは、新しい考えを持つ女性にはこんな服を着て欲しいし、求めているに違いないという妄想だ。そこで女性たちは、どのプレゼンテーションに賛同するかによって自分が着る服を選ぶのだ。男性デザイナーの服がセクシーに見えるのは、彼らが造形的な「美」を追求するからだろう。それにひきかえ女性デザイナーは案外現実的で、こんな服があったら「着易い」や「楽」をキーワードにし、さらに古い考えから解放された自分をデザインし、男性の視線は二の次の場合が往々にしてある。
今まで、何気なく選んでいた服が、男性または女性デザイナーによるものなのか意識することで、ファッションの視点が変わっていく。伝統と革新、感情と知性、点(モード)と面(スタイル)を対比しながら、もう一つの視点を模索してみた。
男性デザイナーという視点から
ディオール(Dior)
19世紀ヴィクトリア朝のランジェリーを現代風にアレンジしたシリーズは、コットンボイルが醸し出す清廉なイメージ。プリーツを施したバージャケットのしなやかなラインは上質のエレガンスが香りたつ。
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ランバン(LANVIN)
人の手が作り出す真実を意味する「マニュフェスト」をテーマに、ランバンを支える職人たちを讃えたコレクション。服が完成する工程をデザインしたり、クチュール的な手法にアルベール・エルバスの繊細さを垣間見た。
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ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
デジタル化社会が本格化する時代を捉えたニコラ・ジェスキエールは、「ファイナルファンタジー」の世界を、メタリックフィルム素材やピクセルをパターン化しモードに変換。確かなクオリティが未来の創造を生み出す力に。
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サンローラン(Saint Laurent)
ムッシュサンローランの形をなぞることよりマインドを読み込むエディ・スリマン。ロックフェス用のウエリントンブーツとクチュール手法のドレスを組み合わせて究極の贅沢を表現。ムッシュを彷彿させる反骨精神は健在。
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メゾン マルジェラ(Maison Margiela)
ロマンチックで創造的なジョン・ガリアーノならではの文脈で綴った新生マルジェラ。時代も国籍も超越したコレクションは、50’sのクチュールと着物ドレスで構成。メゾンのコードを独自のセンスで読み替えた。
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シャネル(CHANEL)
永遠のパリコレクションはシャネルが開催するグランパレにある。会場を空港のカウンターに仕立て、シャネルエアラインを利用するマダムたちが必要なワードローブを展開。トレンドはシューズで表現する。
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ロエベ(LOEWE)
レザーの老舗ロエベのイメージを刷新するかのような、ビニールやミラーをアップサイクルしたコレクションを披露したジョナサン・アンダーソン。コレクション後一部はすぐにオンラインで購入できるシステムを早くも導入。
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ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
独特の色彩感覚と異質なパターンの組み合わせ、ドリスしか奏でることができない不協和音を思わせる組み合わせの服たち。ブロケードやチュールを使いフェミニン度が高いコレクションに仕上がっていた。
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女性デザイナーという視点から
クロエ(Chloe)
スポーツジャージーとシフォンを組み合わせてみたら新鮮なコーディネートが誕生。上質の素材で70’sの香りがするカジュアルを表現するクロエは、時代を超えたパリシックの基準となり女性を魅了する。
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ステラ マッカートニー(Stella McCartney)
カジュアルを新解釈したポロシャツディテールのチューブドレス、動きによってオプティカルな効果をもたらす2色使いのプリーツドレス、刺繍やレーシーな手法のドレスはこの春夏のマストハブアイテムに。
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エルメス(HERMES)
最高級の素材と職人技が常備されたメゾンで働くことの幸せを感じるナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーは、自分のやるべき仕事の一つに頭脳プレーを見出した。色や素材選び、スカーフの扱いどれも知的な作業が施されている。
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アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)
17世紀にカトリック教徒に追われ、フランスからイギリスに逃れたユグノー(プロテスタント)がもたらした繊細なシルク素材やロマンチックな花柄をモチーフにして、たおやかな女性像を描き出した。
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ミュウミュウ(MIU MIU)
ミュウミュウのコレクションは、これから昔話やおとぎ話が始まる予感。オーバーサイズのコートやオーガンジーのエプロンドレスやお姫様のティアラには、どれもストーリーが隠されているかのよう。
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サカイ(sacai)
セカンドハンドショップで見つけた宝物とは、スーベニールスカーフ、ゴールドのレース、シフォン製のバンダナ等など。アシメトリーのヘムラインが揺れるたびに見え隠れする乙女心が、女性を虜にする。
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コム デ ギャルソン(COMME des GARCONS)
ベルベット、マラボーなどを多用してたボリューミーな服をまとった「ブルー・ウイッチ(青い魔女)」は、強さを備えたグラマラスな女性を感じさせる。シーズンのメッセージは常に言葉を必要としない。
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「過去、現在、未来へ」へ進む。
「ファッションの息遣い」へ進む。