三越伊勢丹食品バイヤー×いしかわ農業総合支援機構(INATO)という、食のプロと能登を知り尽くした案内人が手を組み、美食家とともにめぐる「里山里海食ツアー」。
ツアーに同行して体感した大らかな里山里海、そこから生まれる暮らしや食文化に触れた、能登旅紀行“能登EATravel”第2弾。
■奥能登・珠洲に残された自然と人の共生“揚げ浜式製塩法”
奥能登という響きがふさわしい、半島の突端にある珠洲市(すずし)。珠洲市の仁江海岸では、日本で唯一、揚げ浜式製塩法での塩づくりを継承してきた。揚げ浜式製塩法とは、江戸時代から400年以上も続く伝統の塩づくり。海水を浜へ揚げて、塩田へと撒き、乾燥させた砂を集めて木箱に入れる。そこに海水を流して濃い海水を採り、平窯で煮詰め塩をとる製塩技術のこと。早朝からの潮まき、日中の塩田作業、昼夜かかる釜炊など、塩づくりは昔も今も重労働。見学した、すず塩田村(すずえんでんむら)では、塩を約18時間かけて煮詰める釜炊に里山の薪だけを使っている。薪を使うことで里山の生態系にも循環が生まれるという。塩づくりにも里海と里山が結びついているのだ。4月から10月末までの晴れた日だけが作業日となるため生産量が限られる、奥能登の塩。舌の上でふんわり広がるまろやか塩は、文字通り手塩にかけてでき上がっている。
■地元に愛され、世界に認められた日本酒「竹葉」に込められた情熱
日本海に突き出た能登半島は、冬には荒波が押し寄せる外浦と1年を通して波静かな内浦がある。珠洲市から内浦側へ下ると能登町(のとちょう)へ。波穏やかな宇出津湾(うしつわん)を望む地に、明治2年創業の数馬酒造がある。24歳で社長業を継いだという、5代目・数馬嘉一郎さんが若い力で酒造りに挑む。地元で愛される酒であることはもちろん、世界最高峰の料理の祭典「マドリッドフュージョン2014」で、「獺祭」「真澄」「大七」と並んで数馬酒造の「竹葉」が選出されるなど、年間生産高850石という小さな酒蔵ながら世界からも注目されている。
酒造りの要となる米には、高校時代の友人である米農家・裏貴大さんが無農薬無化学肥料で栽培した酒米を使っている酒も。また、酒造りに使う米は、100%自社精米をしている。「能登で作る安心・安全な酒米を使うことはこだわりの一つ。さらに仕入れた米を再選別したり、1%単位で磨けたりと、自社精米することで高い品質管理ができる」と数馬さん。また仕込み水は、能登半島で唯一海に面していない柳田村の山から湧きでる超軟水を、毎日タンクローリーで運んでいる。
旨い酒造りに励む一方、里山里海の保全に向けた活動を裏さんや県内の大学生とともに行う。「地を思うことは、地を興すこと」という情熱で醸す6代目の酒は、奥能登から世界へと広がっていく。
■赤土の能登島・高農園が育む“伝統とモダン”が実った野菜
波が穏やかな七尾湾にうかぶ能登島は、和倉温泉から近く、2本の橋がかかり、リゾート地として多くの観光客で賑わう。そんな能登島の美しい自然に惹かれ、この地に移り住み農業をはじめた高農園の高夫妻。「2ヘクタールからはじめて今では20ヘクタールの畑に。年間300種類以上の野菜をつくっています」と高利充さん。
高農園の野菜は、東京や大阪、金沢などのレストランと直接取引がほとんど。三越や伊勢丹など一部の百貨店で販売しているが、即時売り切れてしまう程の人気野菜だ。高夫妻が「自分でも食べたいと思える、おいしく安全な野菜作りを」と農薬は一切使用しない。また石川県JAS有機認証および石川県エコ農業者として認定されている。
「能登島のミネラル分豊富な赤土に、もみ殻や緑肥を梳きこんで土づくりします。粘土質な赤土は、野菜がゆっくりと育ちます。栄養をしっかりと蓄えて成長した野菜は、身がしまっていて味も濃い。特にイモ類などの根菜は、本当においしい」と妻の博子さん。
農家を営むにあたって“伝統とモダン”をコンセプトにしたという高農園では、石川県の加賀伝統野菜である金時草、加賀太きゅうり、源助だいこん、中島菜、金糸瓜など地に根付いてきた伝統野菜も積極的に手掛けている。
“能登はやさしや土までも”、いつまでも手を振り見送ってくれる高夫妻の姿に、そんな言葉が頭に浮かんだ。
取材協力/
すず塩田村 http://www.suzu.co.jp/enden
数馬酒造 https://chikuha.co.jp
高農園 (TEL/FAX 0767-85-2678)
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