ロシアのヴィルトゥオーソ、ラザール・ベルマン(Lazar Berman)が弾くリストの「巡礼の年」が人気らしい。様々な音楽配信サイトで上位にランクインし、CDショップでは輸入盤が完売。廃盤だった国内版は再版が決定し、15日に店頭に並ぶようだ。
この現象は、村上春樹の最新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に主要モチーフとして登場しているためだ。読者の殆どが、初めて知った曲&演奏者だろう。ベルマンは強靭なタッチ、インテンポで突き進んでいく爽快な解釈、そして存分に歌うロマンティックな演奏で名を馳せた。2005年まで存命の20世紀を生きたピアニストだったが、演奏スタイルは19世紀型。ロマン派の作曲家を得意としており、リストやラフマニノフの音源を私は好む。
中でもリストの「超絶技巧練習曲」63年録音は名盤中の名盤であり、他のピアニストを寄せ付けない。壮絶なテンションと技巧で難所を次々と乗り越えていく凄演が聴ける。リストがベルマンのために“超絶”を作曲したのではないかと思うほどの出来だ。CDは長らく廃盤で、中古市場で高騰していたが、数年前に復刻され手に入りやすくなった。廉価で買えるので是非こちらを聴いてほしい。曲として“巡礼”より遥かに面白い。ベルマンの真骨頂を聴ける。チャコフスキーのピアノ協奏曲1番初期稿をテミルカーノフと共演したマニアックな録音もあるが、こちらは惜しくも廃盤中。
さて、とても象徴的なストーリーの中に無駄に音楽のディテールを書き込んで挿入してくる春樹だが、先日爆笑問題のラジオ番組で爆笑2人が、「春樹著作がこれほど売れるのはおかしい。そんなに分かりやすい内容ではない、ファッションとして楽しんでいるだけだろう」と見解を述べていた。太田は村上龍の方が好みとのことで、村上両名の比較にまで及んだ。
以前より両村上はよく比較されるが、龍はテレビなどに出演し、露出が多いのに対し、春樹は殆ど出ない。これについて「非常にかっこつけた姿勢」と爆笑は評していた。この構図はどこかで見たことがあると私は感じた。そう、日本を代表する2ブランド「ヨウジヤマモト」&「コムデギャルソン」ととてもよく似ているのだ。山本耀司は著書・CD・インタビューなど自身を頻繁に表現するが、川久保玲を目にする機会は圧倒的に少ない。
村上春樹はコムデギャルソンを愛用していると雑誌「考える人」でコメントしていた。著書にもコムデギャルソンの縫製工場を広報部が案内する場面をルポしている。両者とも俄ファンから濃ゆいファンまで、ファン層の裾野が広い部分も共通している。そして、春樹を読んでいれば文学インテリ。ギャルソンを着ていたらファッショニスタ。といった感じのスタンスまで似ていると思う。ルイトモってやつか。春樹と玲が対談したら面白いのに。