【対談:ファッション×IT】vol.1中山路子(ミュベール・デザイナー)×富永勇亮(WEBプランナー)

2013.05.20

距離が縮まりつつあるとはいうものの、モノづくりにおいてファッションITのマリアージュは難しい。時代の最先端の発想を求められる一方で、ハンドメイドのぬくもりや希少性への要求は年々高まりつつある。ファッション、IT、情報...ファッションヘッドラインが送る”新しい関係を探る”対談シリーズ第1弾。

創立5年を迎えるミュベールデザイナー中山路子さんと、インターネットを利用して独創的なコミュニケーションを提案し、広告キャンペーンを始め多方面で活躍するAID-DCC Inc.富永勇亮さん。それぞれの分野で独自のスタンスを確立して確固たる地位を築くお二人に、ファッションとITをテーマにお話いただいた。


ーー自分のこだわりに忠実に作品を作ることーー

「ネットの作品に『感触』はありません。だからこそ、体験が伴い、その人がジブンゴト化できるものを提供したいと模索しているのです」---富永勇亮(WEBプランナー)

富永:ITというかデジタルというか、そういう要素を持っている服ってあるんですか?

中山:デジタルとはちょっと違いますが、熱圧着とか、保湿性が高かったり、逆に冷却性があったりといった機能性を追求したものとかがありますね。

――最近では、インクジェットプリントもありますが、ミュベールでも使いますか?

中山:私はインクジェットはあまり使っていないんです。インクジェットのプリントはコピーのようなものですから、たくさんの色数で表現したいという時には便利です。でもなるべく1色ずつ版で刷っていく方法を取るようにしているんです。その時のちょっとした版のずれだったり、色を重ねた厚みだったりに魅力を感じています。

——1シーズンのコレクションを作るにはどれくらい時間をかけるんですか?

中山:ブランドを立ちあげたころよりも、むしろ今のほうが時間をかけるようになりました。

富永:ファッションの世界では、ファストファッションとかあるみたいですが、にもかかわらず、ということですか?

中山:そうですね。少しでもゆっくり作りたいとがんばっているんです(笑)。準備は半年ぐらい前から、何となくこんな糸や生地を使いたいというイメージはあって、具体化してくるのが3ヶ月くらい前になってからでしょうか。

富永:今のお話を聞いてお見せしたいなと思ったのが、僕たちが携わったインタラクティブミュージックビデオと呼ばれるものです。PCを介して見るんですが、普通のミュージックビデオと何が違うかというと、映像が一つじゃないんです。大げさに言うと、見た人の分だけ映像があるんです。

中山:どういうことですか?

富永:これはワーナーに所属しているandrop というバンドのミュージックビデオなんです(androp「Bell」http://www.androp.jp/bell/ )。
このビデオはゲーム仕立てになっていて、Twitterに連携して、メッセージを届けたい相手を選び、メッセージの内容を書き込みます。入力された文字数によって、予め用意されたキャラクターのうちの一つが現れ、相手にメッセージを伝えようと走り出します。でも、途中には邪魔する怪物や障害など、たくさんの困難が待ち受けています。それを上手にクリアして相手に無事にメッセージを届けられるかどうか、というゲームなんです。

ゲームの解説サイト:http://award.aid-dcc.com/androp_bell/ja/)

中山:(ゲームがスタートし、馬のキャラクターが登場)この馬は、今、メッセージを送った方に向かって走っているんですね?

富永:そうです。今の時代って、メールはもちろん、Twitter、FacebookといったSNSなどで、とても簡単にメッセージを送ることができます。でも本当は、メッセージを届けるのって難しいんじゃないか、と思うんです。だからこのゲームではその部分を象徴的に表現しているんですね。キャラクターはメッセージを携えて必死に走るんですが、ダメージを受けると、メッセージを形成する文字が入れ替わってしまい、メッセージがうまく伝わらないということも多々あります。

中山:引き返せないんですか?

富永:引き返せません。(ゲームは終了し…)、メッセージ、全然伝わっていませんね。ツイートすると、相手にはメッセージと一緒に、僕が今やったゲームの軌跡が見られるURLも送られるんです。相手には、メッセージを送るために僕が奮闘した姿と、でも結局文字化けしてしまって全然意味の通じないメッセージ、そして僕が本当に送りたかったメッセージの3つが分かるという仕掛けです。

中山:これはうれしいですね。「結婚して下さい」とかだったら感動します(笑)。

富永:これはプログラムではありますが、先ほど中山さんが、糸ひとつ、生地ひとつ、そして手作りということにこだわった服作りを目指しているというのを伺って感じたのが、ああ、僕たちもそういう「感触」を大切にしているなぁ、と思いました。ネットの作品に『感触』はありません。だからこそ、体験が伴い、その人がジブンゴト化できるものを提供することにこだわってます。

中山:このゲーム、PCの画面の中だけど、いい意味で気持ちのざらつきとか感触が残りますね。

富永:ありがとうございます。そうなんです、服は意識しなくても絶対に手触りはあるんですけど、僕たちのやっていることには、一切手触りがない。だからこそ、手触り感という部分をとても意識していて、ちょっとでも感情移入できる、触れるようにできる、フィジカルな体験を得たように感じさせるということを目指しています。PCだけど読後感を残すということかな。

(vol.02へ続く)
飯塚りえ
  • AID-DCC Inc./ Katamari Inc. COO 兼 プランナーの富永勇亮さん。最近では「Chrome World Wide Maze」 なども同社の手掛けた作品。
  • ミュベールのデザイナー、中山路子さん
  • AID-DCC Inc./ Katamari Inc. COO 兼 プランナーの富永勇亮さん
  • 【対談:ファッション×IT】vol.1中山路子(ミュベール・デザイナー)×富永勇亮(WEBプランナー)
  • DIRECTOR: 川村 真司 + 清水 幹太 + AID-DCC Inc. CREATIVE DIRECTOR: 川村 真司 + 清水 幹太 TECHNICAL DIRECTOR: Saqoosha + 清水 幹太 PROGRAMMER: Saqoosha + イズカワタカノブ DESIGNER: 森本 友理 ASSISTANT DESIGNER: 伊藤 太一 CG DESIGNER: 山本 文 + 小田島 義行 ASSISTANT CG DESIGNER: 北井 貴之 MOTION DESIGNER:
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