2年振りの開館、東京都写真美術館が大規模リニューアル。記念展「杉本博司 ロスト・ヒューマン」開催中【Report】

2016.09.07

東京恵比寿東京都写真美術館が総合開館20周年を迎え、9月3日にリニューアルオープンした。これを記念し11月13日まで「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展を開催中。現代美術作家・杉本博司による、人類と文明の終焉という壮大なテーマを掲げたインスタレーションを展開する。

約2年にわたる大規模改修工事を経てリニューアルオープンを遂げた東京都写真美術館。英語館名「Tokyo Photographic Art Museum」の頭文字を取った「トップミュージアム(TOP MUSEUM)」を新愛称に、以前よりも明るく開放的に生まれ変わった1、2階のエントランスや、2階エントランスへの映像・音響機の新規導入、1階には美術館初出店となるカフェ「メゾン・イチ」もオープンした。

リニューアル後第1回目に開催されている「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展では、世界初発表となる新シリーズ〈廃墟劇場〉に加え、邦初公開の〈今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない〉、新インスタレーション〈仏の海〉の3シリーズを会場2フロアにわたって展示。綺麗に改装されたばかりなのに申し訳ないと杉本が語るのは、本展コンセプトが “この世の終わり”であるという所以だ。

〈今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない〉は、2014年にパリのパレ・ド・トーキョーで開催された同テーマの展覧会を、東京開催に合わせて日本版として再構築。3階の展示室を埋め尽くす錆びた塗炭は、その殆どがパリで集められたものだという。文明が終わる33のシナリオに付随するのは、自身の作品や蒐集した古美術、化石、書籍歴史的資料など。シナリオはすべて一人称で描かれ、「理想主義者」「養蜂家」「世界保健機関事務局長」などその立場は実に様々。空想めいた物語は時に滑稽でありながら、展示物が歴史的背景を色濃く映し出し現実味を帯びてくる。

2階の展示室は大きく2つにセパレート。仄暗い空間の中に足を踏み入れると、世界初公開となる写真作品〈廃墟劇場〉が姿を現す。1970年代から杉本が制作している〈劇場〉が発展した新シリーズで、廃墟と化したアメリカ各地の劇場を訪れ、自らスクリーンを貼り直し、持ち込んだプロジェクターで災害や天変地異、核戦争などを描いた“ディザスター・ムービー”を上映、映画1本分の光量で長時間露光した作品だ。写真の中のスクリーンはまるで内側から蛍光灯を当てたかの如く白く輝き、朽ち果ててゆく劇場の華やかな装飾を隅々まで露呈する。

そして最後に登場するのは、10年以上にわたり杉本が取り組んできた〈仏の海〉。文明の終わりを感じさせる本展を、「最後は仏様の救いで締め括ってほしい」という杉本の意図が込められた構成だ。これは京都の蓮華王院本堂(通称、三十三間堂)の千手観音を、創建当時の理想的な光で見てみたいとの想いから誕生した作品であり、夏の10日間、早朝5時半より3時間の入堂許可のもと撮影を遂行。朝日を浴びて輝く千本仏は想像を絶する美しさだったといい、輝く仏像に囲まれひとり佇んだとき、「死とはこのように訪れるものなのだ」と予感したという。モノクロに映し出された千本仏は、蛍光灯の光に晒され眼で見るそれよりも、ずっとリアルで厳かである。

杉本は本展を、「写真からもアートからもはみ出した展覧会になったと思う」と話す。「〈今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない〉は、こうなってはいけないという警鐘を鳴らす意味を持つ。学者が論文で発表するのとは違った形で、アーティストとして、“モノ”に語らせアートとして表現することで問題を提起したかった。シナリオを33で構成したのは、〈仏の海〉の三十三間堂との関連で仏教的数字と絡めたから。いわゆるネガティブ・プレゼンテーションだが、人類と文明が遺物となってしまわないよう、みなさんに考えてもらうきっかけになれば」とコメントしている。

【展覧会情報】
リニューアル・オープン 総合開館20周年記念「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展
会場:東京都写真美術館2階・3階展示室
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス
会期:9月3日~11月13日
時間:10:00~18:00
※木、金曜日は20:00まで(ただし9月9日、10日は21:00まで))
※入館は閉館の30分前まで
料金:一般1,000円、学生800円、中高生・65歳以上700円
休館日:月曜日(ただし9月19日、10月10日は開館し、9月20日、10月11日は休館)
畑 麻衣子
  • 現代美術作家・杉本博司
  • 現代美術作家・杉本博司
  • 現代美術作家・杉本博司
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 「杉本博司 ロスト・ヒューマン」
  • 2階のミュージアム・ショップ「ナディッフ バイテン(NADiff BAITEN)」
  • 2階のミュージアム・ショップ「ナディッフ バイテン(NADiff BAITEN)」
  • 1階西側入り口直近に美術館初出店のカフェ「メゾン・イチ」
  • 現代美術作家・杉本博司
  • 現代美術作家・杉本博司
ページトップへ